古寺素描38ー女人高野・室生寺⑦完-奈良
古寺素描38ー女人高野・室生寺⑦完-奈良
 山岳寺院に等しく平地の少ない斜面を利用して仏院を建てているので、各仏院をたどるには石段がつきまとう。金堂の庇越しに緑陰にかくれて五重塔が見え、そちらに気がいって金堂の背後の本堂(灌頂堂)は不遜にも石段の途中で瞥見するだけだった。本堂は、鎌倉時代の建立で、内陣須弥壇の厨子に本尊・如意輪観音菩薩を安置、堂は国宝、菩薩は平安時代のもので重文に指定されている。
 細長い境内の端に重厚な五重塔がある。
 ちかずいて仰ぎ見ると、今まで拝観しているどこそこの塔にくらべて違和感を覚えるのは何故か。いずこの五重塔も建築技術の粋と美の構造物で圧倒的な迫力がのしかかってくるのだが、この塔は他にない重量感が皮膚にささり加わってくるのである。
 そもそも塔の発祥はインド、仏舎利の遺骨を納めて供養し祀るもので、中国を経て朝鮮半島にわたり、日本に伝来した変遷があるのである、が、伝来前の国ではは饅頭形だったそうで、現在日本のあちこち見られる層を重ねる建築ではなかった由。いわば発祥国にも経由国にも、日本人が定型と想うあの怪鳥が翼をひろげたような重層の思想はなかったということだ。
 通常、塔の高さは30m代前後である。それに比し室生寺の五十塔は16、1mで、高さの順でいえば法隆寺の塔の次に低いといわれている程度。さらにいえば五層の屋根が下から順次上にいくにつれ小さくなっていくのが重力のバランス、ところが室生寺の塔は一層から五層までほぼ同じ大きさの屋根で、巨きな力で上から押し下げた角柱の様相を呈しているのは、階層の空間が狭く上にいくほど人間の立ち入りを拒絶した工法をとることによって、こういった低層と角柱の立体工法がもたらす違和感と重圧感が参拝客に浴びせかけているからなのである。

 仏教敵意味合いを披言すると、
 一層・地(基礎)
 二層・水(塔身)
 三層・火(笠)
 四層・風(風請花)
 五層・空(宝珠)
となる。

 頂の相輪は九輪の上にある水煙の代わりに宝瓶をのせ宝鐸を吊り天蓋がかかっている。内部に、秘仏の五智如来像が安置されているとのこと。
 平成10年(1998)の台風倒木で被害をうけたが、2年後に修復され今は前述の通りの状況を大和の山に鎮座している。
 しかしながら、一見に如かずの古寺である。


 画像:朱塗りの柱と白壁が鮮やかな室生寺五重塔

  
  

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